松本千登世さん
エッセイ

ESSAY vol.11

ときめきの作法

【美のプロファイラー・松本千登世のときめきの作法】VOL.11 「自分ヴィンテージ」。

2020.2.19

「背伸び」にもう一度ときめく。

「それ、どこのブランド?」「どこで買ったの?」。最近、そんなふうに聞かれるアイテムが増えました。じつはそれらはすべて、「自分ヴィンテージ」。20年以上も前に、そのときの「私」が思い切り背伸びをして手に入れたものばかりです。当時、目にした瞬間にときめきを与えてくれたものが、ときを経て、自分も時代も変化し、もう一度ときめきを与えてくれる……。出合ったときよりもむしろ今のほうが、ずっと自分にフィットする感覚があります。そのたび思うのです。自分ヴィンテージもまた、大人ならではの特権だって。

30代前半のころ、パリでひと目惚れして購入したペギー・ユイン・キンのバッグ。実は、このバッグ、男性によく褒められる。

年齢感がもたらす嬉しい「化学変化」。

例えば、バレンシアガのハンドバッグ。褒められ率No.1のそれは、じつは当時、自分自身やファッションとの相性を吟味することなく、持つシーンを想定することなく、もの自体の存在感に憧れて「衝動買い」したもの。出番が少ないままクローゼットの奥で眠らせていました。そう、「失敗」だったんです。ところが年齢を重ね、肌の色と質感が変化し、黒の装いが地味に見え始めた私に、ブラウンがスパイスになるはずと手にしてみると? くたっとした形と質感が、どこか年齢感にフィットするみたい。不思議な「化学変化」でした。

これがバレンシアガの茶のスエードバッグ。何だか愛しい。

時間が生む温もり、しなやかさ。

それからというもの、クローゼットの中に潜む新しい出合いに夢中になりました。バッグやベルト、靴などの小物も、時計やジュエリーなど肌に纏うものも、レザーやデニムといった素材も。改めて引っ張り出してみると、なんだかいい。時間とともに温もりやしなやかさを湛えたものが、いい意味で抜け感やこなれ感を添えてくれる。最近になって手に入れた新しい洋服をナチュラルに着崩すことができる。ちょっとだけ無理をして、ちょっとだけ見栄を張って、背伸びをしてよかった。若いころの自分が誇らしく思えるのです。

LOEWEのトートも、カジュアルに持てるひとつになった。

自分ヴィンテージ=経年優化。

自分ヴィンテージがダイレクトに教えてくれること、それは、「経年優化」という価値観なのだと思います。時間を経ることで、再び放たれる輝きがある。いや、時間を重ねたからこそ、増す価値がある。そう思えると、不思議なことに、年齢を重ねることが楽しみになります。自分自身もヴィンテージに。そのためには……? 手入れを怠ってはいけない。新しいものと組み合わせて新鮮さを失わないようにしなくてはいけない……。今、すべき美容が見えてくる気もして。改めて大人になる面白さを感じている毎日なのです。

皮のジャケットは、リック オウエンス。ベルトは、アレキサンダー・マックイーン。
GUCCIのビットローファーも、もう今はない形。

松本 千登世

まつもと ちとせ

美容エディター。航空会社の客室乗務員、広告代理店、出版社をへてフリーに。多くの女性誌に連載をもつ。独自の審美眼を通して語られるエッセイに定評があり、絶大な人気がある。近著に『「ファンデーション」より「口紅」を先につけると誰でも美人になれる 「いい加減」美容のすすめ』(講談社刊)。著書に『結局、丁寧な暮らしが美人をつくる。』『もう一度 大人磨き』など多数。

文・松本千登世 撮影・目黒智子 構成・越川典子