松本千登世さん
エッセイ

ESSAY vol.1

ときめきの作法

【美のプロファイラー・松本千登世の ときめきの作法】「着なかった」もの。

2019.5.13

佇まいから、肌から、言葉から、身につけているものから、「その人」を読み解く――そんな美のプロファイラーからあなたへ贈る、鋭くもあたたかなエールを、毎月、お届けします。

「ときめき」が大人を「更新」する!

憧れている女性の言葉に、どきりとさせられました。「大人になるとね、『顔立ち』を『顔つき』が超えるのよ」。「顔立ち」とは、顔の形や作り、目鼻立ち。「顔つき」とは、気持ちを表す顔の様子、表情。顔立ちが両親にもらったものだとするなら、顔つきは自分自身が創り上げていくもの。そう、大人の顔には毎日の気持ちが記憶されていくのです。だから、日々、自分をときめかせて、幸せにする心がけを。些細なことが美しさを更新して大人の『いい顔』を創る、そう思うのです。

今まで着たことのなかった、初のドット柄。
女優の板谷由夏さんデザインのワンピース。私の顔つき、いつもと違います?

引力に、素直に反応してみると?

思いがけず、次の打ち合わせまで時間が空き、偶然通りかかったセレクトショップに立ち寄りました。洋服はほとんどが黒、ときにグレーや白、せいぜいネイビー? という、ある意味「地味色」ばかりの私。その日もベーシックカラーばかりを目で追いながら、「この春は何を着よう?」とぼんやり考えていました。そんなとき目に留まったのは、ショップの奥のラックにかかっていたオレンジ色のワンピース。着るとか着ないとか頭で考える間もなく、色の引力に導かれるように、ふと気づくと、それを手にしていました。

素材もふんわり軽く、身に着けるだけでいつもと違う自分になれる。
衝動買いも悪くない、と思えた買い物。

色気とは感性、エネルギー、軽やかさ。

あえて言葉にするなら、まさに、ひとめ惚れ。「どうせ似合わないけど着てみようかな」から「勇気を出して買ってみようかな」まで、さほど時間はかかりませんでした。この話を、親しい友人に話したら……? 「色気が減るとね、色気を足そうとするものなのよ」。年齢を重ねると、不思議と明るい色、鮮やかな色が似合うようになる、その理由を冗談交じりに語ってくれたんです。合点が行きました。ここでいう色気とは、みずみずしい感性や生き生きとしたエネルギー。新しいことに挑戦しようとする軽やかさ……。

背中の開きが大胆で、初めて着た日はどきどき、背中は自分では見えないのだけれど、身のこなし方が違う気がします。

着なかったものがくれる、興奮。

その証拠に、色を着た私にまわりは「肌色が綺麗に見える」「なんだか、元気そう」「何か、いいことあった?」と声をかけてくれる。それは色でなく、色を纏うことによって華やいだ表情を褒めてくれているのだと、あるとき気づきました。その出合いをきっかけに、ときどき、本当にときどきだけれど、「着なかった」ものが与えてくれる興奮を知り、楽しむようになりました。たとえば、赤のニット。吸い付くような手触りと、着かず離れずのシルエットに、これまたひとめ惚れをして、一生大切に着ようと購入したんです。

いつもモノトーンの私。赤い色は「あえて」身につけます。
背筋を伸ばしたいとき、元気に見せたいとき。

「似合わせる」を、億劫がらない。

すると……? 口紅の色、どうしよう? アイメイクはどうしよう? 肌は? 眉は? と、色や柄を自分に馴染ませる「調整」が必要なことに気づかされました。そう、自分という存在が新鮮に見えたんです。以来、コーディネイトもヘアスタイルも、少しずつ少しずつ「更新」しています。「似合わない」と決めつけていたのは、ほかの誰でもなく、自分自身。「似合わせる」ことを億劫がっていただけなのだと思います。着なかったものは、こんなにも自分をときめかせてくれる、笑顔にしてくれる。新たな発見に今、夢中なんです。

ドットのワンピース。全身です。
歩くとふんわりスカートがゆれるのが楽しくて。気分も上がります。

松本 千登世

まつもと ちとせ

美容エディター。航空会社の客室乗務員、広告代理店、出版社をへてフリーに。多くの女性誌に連載をもつ。独自の審美眼を通して語られるエッセイに定評があり、絶大な人気がある。著書に『結局、丁寧な暮らしが美人をつくる。』『もう一度 大人磨き』など多数。

文・松本千登世 撮影・青木和義 構成・越川典子