松本千登世さん
エッセイ

ESSAY vol.3

ときめきの作法

【美のプロファイラー・松本千登世の「ときめきの作法」】VOL.3 上質な「カジュアル」。

2019.6.19

「カジュアル下手」な私たち。

お洒落は「よそ行き」で、「普段着」は動きやすく、汚れても乱れても気にならない服。幼いころ、そう刷り込まれたからでしょうか? 私たちは普段着をお洒落にすることが苦手=カジュアル下手と言われてきました。ファッションに携わる友人曰く「決まった型通りに着るのは得意、でも着崩すのは不得手という日本女性に、ずっと『カジュアル上手になりましょう』という提案をしてきたつもり。ところが10年20年経ってやっと定着したと思ったら、今度は着崩しすぎて、はっとさせられない。最近、それがとても気になるの」。

リーバイスのデニムとSINMEのTシャツは定番。自動巻き時計が好きで、Bell&Rossも愛用している。

「難しい」は「ときめき」の裏返し。

ずっと感じていました。カジュアルは難しい。年齢を重ねるほどどんどん難しくなるって。Tシャツもデニムもスニーカーもよそ行きになる時代。ただ大人が漫然と纏うと、だらしなく見えたり、疲れて見えたり。カジュアルの上手下手を分けるのは、よそ行きにするという意気込みとそのための工夫なのかもしれません。肌感や体型を客観的に見つめ、アイテムそのものの質を格上げしたり、ジュエリーや小物の力を借りたりして、存在がくすまないようにする……。すると、「難しい」は「ときめき」の裏返しと思えるようになりました。

HYKEのTシャツは細身で、つかず離れずフィットしてくれるところが大人向き。気に入ると、色違いで揃えてもっていることが多い。

「運動神経がよさそう」に見せること。

「カジュアルが似合う」が最上級の褒め言葉と感じるのは私だけではないはず。なぜ、こうもカジュアルが似合いたいのか? 冒頭で触れた友人に問いかけると「運動神経がよさそうに見えるからじゃない?」。それは、毎日や人生をのびやかに軽やかに楽しんでいることを意味するようでした。わかる、わかる! 逆説的に言えば、カジュアルを似合わせるためには運動神経がよさそうに見える工夫が何より効くってこと。お尻のトップをきゅっと上げる、アキレス腱を少し見せる……、ちょっとした意識で印象が変わると知ったのです。

左のスキニーは、ステラ・マッカートニー。裾がアシンメトリーに切りっぱなしされているのは、ヴェトモン。
毎年、デニムは新しいデザインがほしくなるけれど、これが登場回数ではナンバー・ワン。

「元気そう」「楽しそう」が大人の美しさ。

彼女が言うところの運動神経は、顔や肌にも現れるのではないでしょうか? たとえば、みずみずしくて、輝いていて、ほんのり血色を感じる肌に触れると、毎日を生き生きと生きている姿を想像します。たとえば、目尻を下げ、口角を上げて、屈託なく笑う表情に触れると、人生を幸せに生きている姿を想像します。なんだか元気そう、なんだか楽しそう……。カジュアルが似合うって、きっとそういうこと。これからも、カジュアル上手を目指して、ときめきたいと思います。元気そう、楽しそう、それが大人の美しさだと思うから。

ヴァレンチノのショップで、「これはダービー・シューズと言って・・・」と教えてくれた靴LOVEの店員さん。
カジュアルな服の時に、びしっと足元をしめてくれる。

松本 千登世

まつもと ちとせ

美容エディター。航空会社の客室乗務員、広告代理店、出版社をへてフリーに。多くの女性誌に連載をもつ。独自の審美眼を通して語られるエッセイに定評があり、絶大な人気がある。著書に『結局、丁寧な暮らしが美人をつくる。』『もう一度 大人磨き』など多数。

文・松本千登世 撮影・目黒智子 構成・越川典子