松本千登世さん
エッセイ

ESSAY vol.5

ときめきの作法

【美のプロファイラー・松本千登世の「ときめきの作法」】VOL.5 メンズライクなもの

2019.8.21

相反する要素が美しいバランスを生む。

カメラマン、ヘア&メイク アーティスト、スタイリスト……。女性誌に関わる仕事柄、日々、美意識が高く、個性に満ちたスタッフと接し、感性を鍛えられています。特に最近、彼らと会話をするたび、よく話題に上るのは「女性の心に届く『一枚』を創るためには、ファッション、ヘアスタイル、メイクアップ、そのすべてにおいて『塩梅』が大事」ってこと。『甘』と『辛』、『重』と『軽』、『柔』と『硬』など、相反する要素をほどよくブレンドすることで美しいバランスが生まれる。それはまるで、料理における塩と砂糖で作る塩梅のように。

私の毎日は、9割がパンツ姿。スカートをはくことも珍しいのに、中でも、細かいプリーツのゆれる朱色のワンピースを着ると、不思議と皆が声をかけてくれる。

居心地のいい違和感こそ。

中でもわかりやすいのは、フェミニンとマニッシュのバランスなのだと思います。100%フェミニンでも、100%マニッシュでも、トゥーマッチだったり、逆に物足りなかったり。たとえば、フェミニン要素である鮮やかな色のワンピースには、テーラードのジャケットやスリッポンタイプのミュール、時計や眼鏡でメンズライクなアイテムを足してみる。髪を下すなら、眉をしっかりめに描いたり、肌を艶やかに仕上げたら、唇をトーンダウンさせたり。ちょうどいいバランスを見つけたとき、「居心地のいい違和感」が生まれるのです。

フランク・ミュラーのカサブランカは、レディースなのに、女性を強調しすぎない。メンズライクをプラスするときに、絶妙なバランスを保ってくれる。

人の数だけ正解がある。

居心地のいい違和感こそが、お洒落の醍醐味。私たちはよくそう話しますが、その作り方には100人いたら100の、365日にあったら365の正解があります。味の好みはその人にしかわからない、味の塩梅はその人にしか決められないように、洋服の着方もそうなのではないか、と。最近、レシピに頼らない「脱レシピ論」に注目が集まっていますが、ファッションも美容も、まさにそう。レシピに倣うのでなく、自分なりのそのときなりのお洒落を創る。決して、難しいことではないと思うのです。だって、不正解なんてないのだから。

眼鏡は立派なアクセサリー。デニムにもかけるけれど、それとはまた違う「効果」を狙って、マキシ丈のワンピースにあえてかける。

自分という素材もまっすぐ見つめて。

気づかれない場合も多いのですが、私は、筋肉質で骨太。もともと自分という素材にマニッシュ要素が含まれているから、私の場合は、メンズライクを大胆に加えることで、いい塩梅になります。ただ、年齢を重ねるほどに血色が失せたり、骨ばったりと以前より女っぽさが足りないのも自覚しているので、行き過ぎないように綿密なチェックを忘れません。一方で、華奢だけどグラマラスみたいな友人は、時計や眼鏡などほんの少しで、十分に味が整う。こうしてお洒落を見つめ直してみると、もう一度服にときめく気がしませんか?

ロベール・クレジュリーのミュール。一見、メンズライクなスリッポンに見えるけれど、かかとがないので、動いたり、後ろから見たりすると足首が目に入る。使い勝手がよい一足。

松本 千登世

まつもと ちとせ

美容エディター。航空会社の客室乗務員、広告代理店、出版社をへてフリーに。多くの女性誌に連載をもつ。独自の審美眼を通して語られるエッセイに定評があり、絶大な人気がある。著書に『結局、丁寧な暮らしが美人をつくる。』『もう一度 大人磨き』など多数。

文・松本千登世 撮影・目黒智子 構成・越川典子