会いたかった人

【ずっと会いたかった人】デザイナーの阿部好世さん(3)

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2019.5.13

デザイナー・阿部好世さんは、いつも「商品だけではない何かを手渡したい」と言います。その「何か」とは何なのか? 阿部さんが大事にしている「自分をひもとく時間」を見せてもらいました。

理想の女性っているのでしょうか?
どんな女性になりたいかと聞かれて思い出すのは、ダイアナ・ヴリーランド(1903ー1989)。『ハーパーズ・バザー』のファッション・エディターで、のちに『ヴォーグ』の編集長をつとめた女性。映画にもなった、「個性的であること」を自分で選んだ人。見た目が奇抜だからでなく、その生き方に太い軸があって。コラムニストとしても有名ですが、「よい人生とは一つ。自ら望み、自らつくるもの」など、有名な言葉がたくさんあります。ダイアナのコラム「Why Don’t You…?(なぜ、やらないの?)」というタイトルは、今でもインパクトのあるメッセージだと思います。「自分がしたいことは、する」。彼女のように生きるのは、あらゆるものから精神的に自由でいられなければできないこと。貫くのは、理想だけれど、難しい。難しいのだけれど、自分の軸をどこまでもっていたい。自分はこれでいいんだと感じていたい。ちゃんと選択できる。意識的に選んで生きられる。そういう私でありたいとは思っています。
何が好きで、何が嫌いか。なぜ選ぶのか、なぜ選ばないのか。
会社を経営している上でも、自分自身を明確にしていく必要がある。
自分らしさって、どうやって見つけるのでしょう。
「言葉がなくても伝わるものを作りたい」と、意識的に言葉を封印してきた時期があったんですね。それが、ここ何年か、あえて言葉を使うようになりました。その一例が手紙。メールでもLINEでもなく、はがきをよく書いています。旅先やお仕事で会った人。一緒に働くスタッフにも書きます。スタッフには、手渡しではなく、わざわざ郵送する(笑)。なぜ? と不思議に思いますよね。プティローブノアーを立ち上げて何年かたったとき、ふと時間が過ぎるのがあまりにも早いことに気づいたんです。もう一度「自分らしさって何?」と考えたとき、「アナログなことが自分の心に残っているし、誰かの心にも何か刻むことができる」のではないかと思うようになったんです。そこからです。手紙を書く時間、受け取る人が読む時間をもつことで、少しだけ時の流れをゆったりさせることができるのではないかと。心の中で何かを醸し出す、自分をひもとく・・・そんな感覚でしょうか。
阿部さんを支えるスタッフの一人、PRの鈴木さん。
「尊敬できる人です」と鈴木さんが言えば、阿部さんは「え~、照れますね~~」。
本が大好きという噂を聞きましたが・・・。
家の書棚には、写真集や画集の他に、小説、エッセイ、歴史、ドキュメンタリー、心理学・・・ジャンルはいろいろ。そのとき、そのときに関心のある本を手にしています。本を読むのも、モノ作りに至る「手間と時間」のうちと思っています。今、ゴールドやシルバー、真珠や石を(YOSHIYOラインで)使うようになってきて、真珠にものすごく関心があるんですね。すると、周辺のことを無性に知りたくなって、夢中で真珠の関連の歴史や地理の本を読んでいるんです。この「手間と時間」が、これから私が手がける作品の「深み」や「厚み」を増してくれるのだと信じているんです。よく、阿部さんのON・OFFってどう分けるのですかと聞かれるのですが、私には分けられないんです。どの時間も「私は何者なのか」と問いかける作業をしているし、モノ作りには欠かせない時間なんです。
読んだ本、見聞きした知識がすべて作品に昇華されている。
作品を手にした消費者も、楽しみながら、そのストーリーを想像する。
この先、どんな人生を送りたいと思いますか。
自分にとって何が大切かを知ることで、顔の表情一つとっても変わってくると思います。人となりが顔となり、身なりとなり、言葉となって現れてくる。結果として、その人の人生を形づくることになる。いつの瞬間でも、自分で選ぶことができれば、どんな結果になろうと納得すると思うんですよね。だから先のことは、あまり決めないですね。何歳までに何をしたいとかも、今はありません。決めてしまったら、それにしばられるから、「決めすぎない」と決めている。将来、NYに住もうか、とも思わない。でも、住みたいと思ったら、すぐに実行するのじゃないかと思います。それより、毎日の小さな選択をきちんとすることが大事。何が大事で、何がそうでないか。何を選んで、何を選ばないか。いつも自分に問いかけています。
デザイナーであり、経営者でもあり、また一人の女性でもある。
全部ひっくるめて、阿部好世という人間なのである。

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阿部好世(あべ・よしよ)「プティローブノアー」デザイナー

新潟生まれ。高校卒業と同時にアメリカへ留学、NYでファッションを学ぶ。蚤の市で出合ったコスチュームジュエリーに魅せられ、帰国後2005年にオンラインショップを立ち上げる。2007年に直営店「petite robe noire」を東京・恵比寿にオープン。2年後には「古いものと新しいものをつなぐ」という考えのもと、日本の職人とともにコスチュームジュエリーのコレクションを発表、進化を続ける。その後、「YOSHIYO」ブランドでジュエリーラインも発足、2015年にはウェアコレクションもスタートした。

撮影・前田和尚 構成/文・越川典子